T room
edited by takuya yamada
オーストリア
ストンボロウ邸
住宅
設計:パウル・エンゲルマン、ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
ウィーン郊外 竣工1928年
敷地はウィーンの中心部から東に2㎞程いった静かな場所に位置する。
建物は盛土された壁で覆われた上に建ってることで、道路からの目線を遮っている。
当時の敷地は現在の倍程あったが、今は南西側の庭の部分がなくなっており、当初の曲線で構成されたアプローチ通路の部分がなくなっていているのは残念である。
設計者は最終的に哲学者ウィトゲンシュタインであるが、当初はアドルフ・ロースの弟子であるエンゲルマンが設計していた。全体的なボリュームやプランはその時に大枠出来上がっていたようであるが、施主であるウィトゲンシュタインの姉が弟に療養のため建築に携わるよう勧めたことがきっかけで、いつの間にかウィトゲンシュタインが設計にのめり込んだようだ。それ故に、設計者が建築家から哲学者に変わってゆくという類い稀な住宅になっている。
建物は平滑な外装に縦長のスチールの窓が規則正しく並んでいるだけの外観であり、内装も人造石の磨き上げられた黒っぽい色の床に平滑な壁で外観・内装共にいたって簡素である。
その中で目につくのが「開口部」である。1階部分の「開口部」は内部と外部を繋ぐ開口部も部屋と部屋を繋ぐ開口部も意図して同じプロポーション、同じ材質(スチール)にしている。開口部の位置も熟慮され、この開口部が空間を特徴づけている。開口部のパタンとしては表面を平らに仕上げたスチールのドア、スチールの縦桟でガラス嵌め込んだものの2パタンで、そのガラスも透明と半透明のパタンがある。外部は寒さのためか2重サッシで雨戸もカーテンも無いようである。内部でも2重のところもあり、その理由を考えさせられる。
また、開口部、把手、放熱器などのスチール製品は全て一品生産で細部に至るまで精巧さを求めたそうである。
開口部のほかに特徴的なのが上下階の動線部分である。エントランスの軸線上にエレベーターがありその廻りを階段が取り付いている。エレベーターが透明なガラス覆われていていることで北側に配置されているが機能的で明るい階段室になっている。余談であるが、この階段室の3階部分に少し大きめの窓が3つ並んでいて、ウィトゲンシュタインが最後まで気に入らなかった部分であるらしい。
このようによくよく見ると簡素なデザインながらみどころがたくさんある建物である。
1928年に建物はある程度改修しているようであるが、ウィトゲンシュタインという哲学者のよい意味で熟慮されつくしたマニアックなディテールは今でも見ることができて興味深かった。しかし、その部分をまだまだ見逃しているような気がするし、また、理解出来ていないというのが正直な感想だ。そういう所も含めて魅力的な建築である。
内外装
外壁/打放しコンクリート
床/人造石磨き仕上
ホール壁/スタッコ塗り